パートタイム就業規則は必要?作成義務・注意点・手順について解説

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  • 公開日: 2024/5/13

事業の拡大などにより、パートを雇い始めることもあるでしょう。

その場合、パートタイムの就業規則を作成しなければならないことはご存じでしょうか。

これは労働基準法に定められた義務であり、場合によっては罰金の対象になることもあるので注意が必要です。


本記事では、パートタイム就業規則の作成義務・必要性・注意点・手順などについて解説します。

最近パートを雇い始めた人や、就業規則について知らない人は参考にしてください。

1. パートタイム就業規則の作成義務と必要性


パートタイマーの人を雇用すると、ある条件下では就業規則の作成義務が課せられます。

義務を怠ると罰則の対象になることもあるので注意が必要です。


ここでは就業規則の作成義務や必要性について、労働基準法をはじめとした法律や考えられる問題点について解説します。

1-1. 労働基準法

労働基準法の89条では、パートやアルバイトを含む10人以上の常勤従業員を雇用している場合、就業規則を作成して労働基準監督署長へ届け出る義務が明記されています。

なお、10人以上の常勤従業員を雇用しているかどうかは事業場所単位でカウントされ、会社としては10人以上でも事業所単位では10人に満たない場合は必要ありません。


たとえば個人でWebショップを経営していたとします。

顧客数などの増加により1〜2人のパートタイマーを雇用した場合、10人に満たないので就業規則の作成義務は発生しません。

1-2. パートタイム・有期雇用労働法

パート・アルバイトを含む10人以上の常勤従業員を雇用していない場合、就業規則を作成する必要はありませんが、これは労働基準法上でのことです。


一方で2021年4月1日から「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されました。

これにより、非正規社員は待遇の内容・差・理由について事業主に説明が求められるように変更されています。


第14条第2項において、事業主はパートタイマーから問い合わせ・求めがあった場合には、待遇の相違点とその理由について説明しなければならないのです。

明確な説明の義務を怠った場合は、行政指導・処分や損害賠償の対象になることもあります。


このような事態を避けるために、事前に就業規則を作成しておいたほうが良いでしょう。

1-3. トラブル回避のために必要

パートタイム就業規則には、賃金や勤務時間などの条件・規則が明記されます。

これらは事業主にとっても従業員にとっても重要な条件であり、就業規則として明確化されていない場合は、トラブルが起こる可能性が高くなるでしょう。


常勤従業員10人以下の場合、就業規則の作成義務は発生しませんが、トラブルが起こった際には問題解決が遅れてしまうことも予想されます。

事前回避の意味でも作成は必要といえます。

1-4. 懲戒解雇ができない

パートとして雇用したすべての人が、誠実に仕事に取り組んでくれるとは限りません。

なかには事業の方針にそぐわない人も出てくるでしょう。


就業規則がない場合、会社・事業に支障をきたすような人がいても解雇などの懲戒処分を実行できません。

処分を科すためには、あらかじめ就業規則に種別・自由などを定めておく必要があるからです。


何らかの問題がある従業員に懲戒処分を科せないことは、ほかの従業員にとっても悪影響を及ぼすでしょう。

事業全体や全従業員にとって働きやすい環境を整備するためにも、パートタイム就業規則は必要といえます。

2. パートタイム就業規則作成時の注意点


パートタイム就業規則は、労働基準法などの法律に基づくものであるため、どのような内容でも良いわけではありません。

特に注意点を抑えておかなければ、作成した後でトラブルが発生することも考えられます。

 ・同一労働同一賃金

 ・無期転換ルール

 ・雇止め告示の通知方法

 ・契約更新基準


ここでは特に上記4つの注意点について解説するので、作成前の参考にしてください。

2-1. 同一労働同一賃金の確認

2020年4月から施行されたパートタイム・有期雇用労働法では、同一労働同一賃金のルールが定められています。

簡単に解説すると、社内における賃金・待遇などにおいて格差・差別を禁止するルールです。


たとえば社員には通勤手当や皆勤手当てが支給される一方で、パート社員にはこれらが支給されていないなどのケースがこれにあたります。

事業としての規模が小さい間は、「社員を雇用するつもりはない」と考える人もいるかもしれません。

しかし、さまざまな理由から事業規模が拡大して社員を雇用することになった場合、同一労働同一賃金のルールに反していると行政指導や罰金などの対象になります。


「今」ではなく「今後」のことも考慮したうえで、確認しておきましょう。

2-2. 無期転換ルールを考慮して制定

無期転換ルールとは2013年に労働契約法に新設されたルールで、雇用更新が5年以上繰り返し更新されると、雇用されている側の希望に沿って期限なしの契約に転換しなければならないというものです。


たとえばパート社員として1年間の雇用契約を結んだとしましょう。

その後、毎年1年契約での更新がなされ、6年目の契約時にパート社員側から無期限での雇用契約にして欲しいとの申し出があったとします。

雇用する側はこの申し出を受け入れなければなりません。


5年を超えての採用を考慮した就業規則にしたほうが良いでしょう。

2-3. 雇止め告示の通知方法

雇止め告示の通知は、労働基準法第14条2項に明記されています。

パート社員の場合、1年を超えて雇用している場合には、遅くとも契約終了30日前に予告しなければならないという内容です。


ただし、就業規則にて雇止めの予告が明記されていない場合は、雇用者側からの契約打ち切りができません。

雇う側にとって不利になる可能性があるため、通知方法については明記しておくことをおすすめします。

2-4. 契約更新基準を明示

契約更新の基準については、労働基準法第15条に明記されており、パート社員と雇用する側の双方にとって重要な内容といえるでしょう。

特に明記しておいたほうが良い内容は主に以下の2つです。


 ・契約更新の有無

 ・契約更新の判断基準


これら2つについての明記がなされていなかった場合、パート社員側から訴訟を起こされるなどのトラブルが発生するかもしれません。

なお「判断基準」については事業の経営状況なども盛り込んでおくと、売上が著しく低下した際の雇止めがしやすくなります。

3. パートタイム就業規則の作成・届出の手順


パートタイム就業規則は、どのような手順で作成すれば良いのでしょう。

従業員と雇用側の双方が納得できる内容にするためには、一定の手順での作成が重要です。

また、作成した後は、届出もしなければなりません。


ここでは作成から届出までの手順について解説します。

3-1. 元となる案の作成

最初に元となる案を作成しましょう。

ここで考慮すべきことは、前述した4つの注意点です。

 ・同一労働同一賃金

 ・無期転換ルール

 ・雇止め告示の通知

 ・契約更新基準


これら4つは、就業規則のなかでもトラブルを回避する重要な役目も担っています。

一度作成してしまうと、変更するためには時間と労力が必要です。

あらゆるケースを想定して案をまとめたほうが良いでしょう。


また、労務についての知識・経験が豊富な弁護士に相談することもひとつの方法です。

3-2. 従業員への聴取

ある程度の案がまとまったら、それを参考にしつつ従業員の意見を聴取しましょう。

就業規則は雇用する側から従業員への押し付けではなく、必ず双方にとって納得できる内容でなければなりません。

また、一方的な内容で作成してしまうと、トラブルの原因になる可能性も高いでしょう。


ある程度の案をまとめたら、従業員への聴取を行い、さまざまな意見・希望などを取り入れて肉付けをしましょう。

3-3. 労働基準監督署長へ届出

従業員への聴取を行い、過半数の賛成が得られたら労働基準監督署長に届出を行います。

届出時に持参する書類は以下の通りです。

 ・就業規則(届出用と控えの2部)

 ・従業員代表者の意見書

 ・就業規則(変更)届


3つ目の「就業規則(変更)届」については、厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)」からダウンロードできます。

上記3つの書類はすべて就業規則の届出を行う際に提出が定められているものばかりです。

どれか一つでも不足していると受理されないので注意してください。

3-4. 従業員周知

届出が完了した後は、従業員に周知します。

就業規則の従業員周知は、労働基準法第106条にて義務付けられているので、必ず行ってください。

何らかのトラブルが発生した場合、周知していない事実が判明すると裁判で就業規則が無効とされる可能性が大いにあります。


「従業員全員に周知した」という証拠が残るように文書で各個人に配布したうえで、誰もが確認できるわかりやすい場所に張り出しておくなどの工夫が必要でしょう。

4. パートタイム就業規則は義務化された働くルールブック


パートタイム就業規則について解説しました。

結論からいうと、パートを含む常勤の従業員が10人未満の場合は、パートタイム就業規則を作成する義務は発生しません。

しかし、その一方で就業規則は、従業員と雇用者側の双方が納得したうえで気持ちよく働く重要な役目を担っています。また、トラブルが発生した際の解決手段や回避にも役立つでしょう。

1〜2人といった少人数のパート雇用の場合、義務は発生しませんが、作成しておいたほうが良いといえます。

労務に詳しい弁護士に相談して、双方にとって納得できる内容のパートタイム就業規則を作成しておきましょう。