
テレワークにおける労働時間管理の最新事情
- カテゴリ: 最新のワークライフ環境
- 公開日: 2025/7/21
テレワークは、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として一気に広まり、多くの企業で常態化しつつあります。その一方で、出社を前提とした従来の労務管理では対応しきれない課題が浮き彫りになってきました。とくに重要性が増しているのが、労働時間の適切な管理です。
テレワークでは社員の姿が見えないことから、勤務時間の正確な把握や長時間労働の防止が難しくなるケースが多く、労務トラブルの温床になりかねません。また、労働基準法や関連する法制度にも近年さまざまな改正が加えられており、人事労務担当者としては常に最新情報をキャッチし、適切な対応が求められています。
本記事では、「テレワークにおける労働時間管理の最新事情」として、法改正の動向や企業の対応例、勤怠管理システムの導入事例、社員への周知方法、そしてトラブルを未然に防ぐための実践策について詳しく解説します。
1. 法改正とその影響

■ 労働基準法とテレワーク
日本における労働時間の管理は、労働基準法によって厳格に規定されています。法的にはテレワークであってもオフィス勤務と変わらず、始業・終業時刻を正確に把握し、記録する義務が事業主にはあります。みなし労働時間制やフレックスタイム制などの制度を導入する場合にも、適用要件を満たす必要があります。■ 2023年以降の制度改正ポイント
近年の制度改正では、以下のような動きが見られました:・テレワークガイドラインの改訂(厚生労働省)
労働時間の適正な管理や、通信費・光熱費等の費用負担について、企業側の責任が明確化されました。
・労働時間の客観的記録の義務化
PCログや勤怠システムの利用など、客観的な方法で勤務状況を把握する必要があります。
・中小企業に対する働き方改革関連法の猶予期間終了
残業上限規制や有給休暇の取得義務など、すべての企業が同等の法的義務を負うことになりました。
これらの動きにより、テレワークを導入している企業でも、法令を遵守したうえで柔軟な運用が求められるようになっています。
2. 企業の対応例

さまざまな業種の企業が、テレワーク下での労働時間管理をめぐり独自の対応を進めています。以下はその一例です。
■ A社(
A社では完全リモートワーク制を採用しており、勤務開始・終了時にチャットツールで「始業」「終業」のメッセージを投稿する運用を基本としています。さらに、PCのログイン・ログアウト時間をバックエンドで記録することで、社員の自己申告との乖離がないかをチェックしています。
また、毎週1回の「セルフマネジメント報告書」により、自身の労働時間や生産性、課題などを記載して提出させ、マネージャーと1on1で確認する仕組みもあります。
■ B社(製造業)の事例
一部職種のみテレワークを認めているB社では、対象社員にモバイル打刻が可能な勤怠管理アプリを配布しています。業務の開始・終了だけでなく、休憩時間や中抜け時間についてもアプリで打刻を求め、正確な労働時間の集計を実施しています。労働時間の可視化により、部署ごとに残業時間の偏りを把握しやすくなり、業務分担の見直しや働き方改革にも活用されています。
3. 勤怠管理システム導入事例

テレワーク下での勤怠管理を効率化するため、多くの企業が勤怠管理システムを導入しています。以下、導入実績の多い代表的なシステムとその特徴を紹介します。
■ 「KING OF TIME」
クラウド型勤怠管理システムで、多様な打刻方法(ICカード、スマートフォン、PCログインなど)に対応。GPS機能により、在宅・外出先など勤務場所を問わず正確な記録が可能です。API連携機能を活用すれば、給与計算システムとの連動もスムーズに行えます。■ 「ジョブカン勤怠管理」
ジョブカンはコストパフォーマンスの高いクラウド勤怠管理ツールとして、多くの中小企業で導入されています。打刻ミスや過剰労働をアラートで通知する機能もあり、労働時間の自動集計や労基法違反のリスク低減に寄与しています。■ 「TimePro-NX」
セキュリティや社内システムとの連携を重視する大企業向けの勤怠管理システム。テレワーク社員と出社社員を統合的に管理でき、複雑なシフト制や変形労働時間制にも対応可能です。これらのシステムを導入することで、人事担当者の負担軽減はもちろん、労働時間管理の正確性と法令遵守の徹底が可能になります。
4. 社員への周知方法

いくら制度やツールを整備しても、社員が理解していなければ意味がありません。労働時間管理の正確な運用には、社員一人ひとりへの理解と協力が不可欠です。
■ 社内研修・説明会の開催
テレワーク勤務開始前や法改正時には、必ず全社員向けにオンライン説明会を実施しましょう。勤怠の取り扱いやシステムの使い方、就業規則の変更点などを具体的に説明することが大切です。■ マニュアル・動画によるサポート
操作手順や勤怠ルールをまとめたマニュアルやFAQを社内ポータルに掲載するほか、動画解説を用意することで、理解しやすい環境を整えます。■ 定期的なリマインド
勤怠に関する重要なポイントは、メールやチャットで定期的にリマインドを行うことで、忘れがちなルールの徹底を促します。また、管理職向けには監督責任についての研修も実施するとよいでしょう。5. トラブル防止策

労働時間の管理が曖昧になると、労使間のトラブルが発生するリスクが高まります。以下のような対策を講じることで、未然に問題を防ぐことが可能です。
■ 労働時間の可視化
社員ごとの勤務状況を見える化し、管理者が随時モニタリングできる体制を整えましょう。過重労働の兆候や長時間労働が疑われる場合は、早期に本人と面談を行い、対応策を講じます。■ 就業規則・労使協定の明文化
フレックスタイム制や裁量労働制など、特別な制度を導入する場合には、労使協定の締結や就業規則への記載が必要です。曖昧な運用はトラブルの温床となるため、制度の趣旨や適用条件を明確にしておきましょう。■ 勤怠記録の保存
勤怠データはトラブル時の重要な証拠となります。システム上で打刻履歴を保存し、変更履歴も含めて管理しておくことで、労働時間に関する問題が発生した際にも証拠を元に対処できます。6. まとめ
テレワークの普及により、労働時間管理はますます複雑化しています。法改正への対応、適切な勤怠管理システムの導入、社員への周知、トラブル防止策の実施など、事業主には労働時間の正確な把握と運用が強く求められます。
テレワークを安全で生産性高く運用するためには、これらの要素をバランスよく整備し、継続的な改善を行っていくことが不可欠です。労務担当者は、これらの課題に対し、法的な義務を守りつつ、社員が快適かつ効率的に働ける環境を整えていく必要があります。