
テレワーク時代の労働基準法対応まとめ ~労働基準法に対応したテレワーク体制づくりのポイント~
- カテゴリ: テレワークの働き方
- 公開日: 2025/6/16
テレワークの普及によって、働く場所や時間に対する柔軟性が高まりました。一方で、働く環境が変化したからといって、企業が労働者に対して負う責任が軽くなるわけではありません。就業場所がオフィスであろうと自宅であろうと、労働基準法などの法令は変わらず適用されます。
「自宅勤務だから、多少の管理の緩さは問題ない」と思われがちですが、その認識は誤りです。法令に沿った体制づくりを行わなければ、思わぬトラブルや法的リスクを招きかねません。
ここでは、テレワーク時代に求められる労働基準法対応について、企業が整えるべき体制を4つの軸からわかりやすく解説します。
目次
1. 労働時間の管理体制を整える

テレワーク中であっても、企業には「いつ働き始めて」「いつ終わったのか」という労働時間の把握義務があります。出社していなくても、勤怠管理が不要になるわけではありません。
体制づくりのポイント:
・クラウド型勤怠管理システムの導入
・業務開始・終了時のチャット報告ルールの設定
・みなし労働時間制の検討(業務内容により要件確認が必要)
テレワークでは、従業員の労働時間を「自己申告」で管理せざるを得ない場面も増えます。だからこそ、勤務開始・終了の記録ルールを明確にし、日々の業務を見える化することが重要です。
特に注意が必要なのは「サービス残業」の温床にならないようにすること。残業が発生した場合には、法律に従って割増賃金を支払う必要があります。適切な勤怠管理は、企業のコンプライアンス強化、従業員の健康管理にもつながります。
2. 在宅勤務にかかる費用のルールを明確にする

テレワークでは、業務に伴う通信費・電気代・プリンターの用紙代などが、従業員の自宅で発生します。労働基準法上、これらの費用を企業が負担する義務は必ずしもありませんが、一定の補助を行うことで従業員の不満を防ぎ、信頼関係を築くことができます。
体制づくりのポイント:
・在宅勤務手当の支給ルールを整備・明文化
・月額定額支給、または実費精算方式の検討
・就業規則やテレワーク規程への明記
テレワーク初期は、「個人の裁量だから自宅の費用も自己負担で当然」とする企業も多くありました。しかし、それでは従業員は安心して働けません。
たとえば「通信費は月いくら補助する」「電気代は手当の中に含める」など、ルールを明確に決めておくことで、トラブルの予防につながります。ルールが曖昧なままだと、従業員の間で不公平感が生じるリスクもあります。
3. メンタルヘルス支援体制を整える

テレワークは集中しやすい反面、孤独感や不安を感じやすく、メンタル不調のリスクも高まります。企業には、労働安全衛生法に基づき、心身の健康に配慮する義務があります。
体制づくりのポイント:
・上司との定期的な1on1面談の実施
・社内相談窓口・外部カウンセラーの設置
・ストレスチェック制度の活用(従業員50人以上で義務)
テレワークでは、気軽な雑談や立ち話といった「ちょっとしたコミュニケーション」が減少します。それにより、メンタルの変化にも気づきにくくなります。
そこで、1on1やオンラインでのカジュアルな雑談タイムなど、「つながりを感じられる仕組み」を意識的に作ることが大切です。「調子が悪くても誰にも気づかれない」状態を放置せず、企業側から積極的にサポートする体制を整えましょう。
4. 安全衛生管理を在宅勤務でも徹底する

テレワーク中に発生したケガや病気でも、それが業務に起因するものであれば労災となる可能性があります。「自宅勤務だから労災は関係ない」とは言えません。
体制づくりのポイント:
・在宅用作業環境チェックリストの活用
・テレワークガイドラインの策定・配布
・災害・緊急時の対応フロー整備
・衛生管理者・産業医との連携強化
たとえば、パソコン作業による腰痛や眼精疲労、在宅中の転倒事故なども、内容次第では労災の対象になります。だからこそ、自宅の作業環境に関しても「安全配慮義務」があるという前提で、チェックリストなどを通じて従業員と共有しておくことが必要です。
また、災害時や体調不良時に「どこへ連絡すればよいか」「どんな対応をとるべきか」といったガイドを明文化しておくことで、いざという時の混乱を防げます。
5. まとめ:法令順守と働きやすさを両立する体制づくり
これまで見てきたとおり、テレワークを適切に運用するには、
・勤怠管理
・費用負担
・メンタルケア
・安全衛生管理
の4つの視点から体制を整えることが重要です。
テレワークは、生産性向上や多様な働き方の実現につながる一方で、労務管理上のリスクも潜んでいます。
「見えない勤務実態」「曖昧な費用負担」「メンタル不調の放置」「災害時の対応の遅れ」など、いずれも放置すれば企業責任に発展しかねない課題です。
だからこそ労務担当者には、制度を“作って終わり”にせず、運用まで見据えた設計が求められます。
実務で押さえておくべき4つの柱:
1. 勤怠管理のルール整備
→自己申告だけに頼らず、客観的な勤怠記録が取れる仕組みを構築
2. 費用補助の明文化
→就業規則や社内規程に明記し、従業員への説明責任を果たす
3. メンタルケア体制の構築
→「つながり不足」に対応する仕組みを整え、早期対応できるようにする
4. 安全衛生管理の拡張
→在宅環境の整備と災害対応の明文化を行い、労災リスクを軽減
制度の“形骸化”を防ぐには?
制度やルールをつくっただけでは、実態に即した運用は難しいものです。形骸化を防ぐには、以下のような取り組みが効果的です:・定期的な制度見直し(年1回目安)
・人事・総務・現場マネージャーとの連携体制づくり
・従業員向けQ&Aやガイドブックの整備
・研修・eラーニングなどを通じた継続的な周知
テレワークは一時的な措置ではなく、今後も継続・拡大していく働き方です。制度の導入だけでなく、現場との対話と運用支援こそが、労務担当者の力の見せ所となります。
最後に:法令順守は「守り」ではなく「攻め」の一手
労働基準法への対応は、企業のリスク回避という「守り」だけでなく、従業員の満足度やエンゲージメントを高める「攻めの戦略」にもなります。
「安心して働ける」「納得して働ける」環境を整えることは、離職防止や採用強化にも直結します。
テレワーク時代の労務管理を「コスト」ではなく「価値創出」の視点で捉え、制度設計と現場運用の両輪で支えていきましょう。